Aitheascal World
はじめにこの世界を治めんとした生き物は一匹のドラゴン だった――。 世界はある日、賢き竜を招き入れた。彼の名はスマラグド――緑の石。煌めく鱗をもった竜は、なぜか世界を管理するようになった。 彼は無秩序な世界を調律し、長き平和をもたらしたという。竜の力によって育まれたその世界はいつしかアハシュカル(神託の地) と呼ばれるようになった。 実際に存在している世界だが、竜による神話時代が終焉を迎えた後、次第に忘れ去られていく運命にある。そうして彼らの住む広大な大地は天上世界として「神話」や「伝承」といった幻想の舞台へ領域を移していった。
神託の地に存在する竜種は一体だけ だと言われる。 世界が在ったとき、竜はまだ神託の地におらず、小さな生命が無秩序に存在していた。そこに現れたのが唯一竜スマラグドである。彼が永き微睡から目覚めると、刹那の繁栄の後、強すぎる力ゆえにアハシュカル世界の崩壊が始まった。 竜はその惨状を大層嘆いた。そこで安寧をもたらすための部下として、特異な土地に身体と魂魄の一部を埋め、己に近しい力を持つ命を芽吹かせた。これが白と黒、翼の生えた最初の二体である。 すると今度は白と黒が、竜より肉体を借り受けて五体の部下を創りだした。まもなく唯一竜 と七体の羽翼獣 が世界中へ散ることとなった。
現代において亜竜――すなわち竜の子孫と呼ばれる彼らは元々は「唯一竜の身体の一部」だった 。竜の分け身である彼らが親たるスマラグドを模して生まれ落ちたのは自然の成り行きだった。白は魂魄から、黒は頭から、青は腹から、金銀の双子は背から、茶は首から、紫は爪から、赤は尾から。八体の翼持つ生き物は特異な土地の力を宿して作り出された。 彼らの中には反抗的な存在もあったが、次第に最も力あるスマラグドを親と認め慕うようになり、世界の造形を変えるほどの力を以て竜の意志を伝え歩いては楽園の一端を築く役目を担った。 かくて唯一竜は八匹の子を持ち、家族を得た。
竜と羽翼獣の階級 | |
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呼称 |
特徴 |
大陸竜 |
親は不明、「律制」の象徴。司るは「世界」。 彼ら獣をつくりもうた者。 |
黒翼 |
親は大陸竜、「本能」の象徴。司るは「大地」。 世界の混乱を収集し纏める者。 |
白翼 |
親は大陸竜、「記憶」の象徴。司るは「天空」。 世界の種々を体系付け分割する者。 |
青腹 | 親は黒翼、「混沌」の象徴。司るは「無限」。 彼らと異なる者らへ溶け込む者。 |
銀背 | 親は白翼、「快楽」の象徴。司るは「都市」。 彼らにまつわる出来事を見張り諭す者。 |
金背 |
親は白翼、「苦痛」の象徴。司るは「時間」。 彼らにまつわる出来事を観察し問う者。 |
茶首 |
親は黒翼、「慈愛」の象徴。司るは「森林」。 彼らの立場を越え適切な状態に保つ者。 |
紫爪 |
親は白翼、「忘却」の象徴。司るは「地下」。 彼らに代わり意志を実行する者。 |
赤尾 |
親は白翼、「破壊」の象徴。司るは「鉱物」。 彼らの中で最下級かつはみ出し者。 |
竜が翼獣を作った後のこと。竜の魔力干渉により崩壊の一途を辿る土地で、翼持つ子らは新たな生命を芽吹かせんと奔走した。しかし彼らの力だけでは不可能であった。そこで竜の子孫らは己が力を込めて異形の子孫を各々作った。
こうして力はヒト、猫、虫、大鴉、魚、蜥蜴…他にも狼や、名もなき巨大生命などへ受け継がれ、翼獣たちと共に竜の夢を守った。
子孫の従属関係は与えられた肉体部位によって決定する。 通常は竜>翼獣(翼)>眷属(角)>血牙族(牙) の順である。
眷属 | 亜竜の「角」より作られし獣型。のちの世では幻獣と同一視。「角」を持つ。 |
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血牙族 | 亜竜の「牙」より作られし人型。長は同族亜竜により選ばれる。「牙」を持つ。 |
強き力の宿る角を譲り受けた眷属は、より竜や翼獣に近しい存在として捉えられる。しかし竜や翼獣が消えていくに従い彼らも姿を消してしまう。
一般的に眷属とは幻獣や異形と呼ばれる部類の存在 である。 彼らは翼もつ亜竜が角を大地に埋め、自らの転生体として創り出した獣型の生き物だ。彼らは神代の刻が終わり竜が姿を消す少し前に、戦いで弱り切った亜竜達と代替わりした。 かつては同時に八体の眷属が存在していた時期もあったが、本編軸で確認出来るのは赤青黒の三種族のみである。
眷属はいわば竜や羽翼獣たちがバックアップとして創った己の転生体 である。発生時期はまちまち。 作った理由に関しては諸説憶測あるが、最も有力な説は、「いつしか訪れる滅びを悟った羽翼獣たちが、竜亡き後の世界的混乱を収めるべく後世へ力を残そうとした」である。 性格や能力に差異があるため、亜竜と眷属は「別個の存在」として捉えられるも、特に強い力を持つ白翼・黒翼に関してはこの限りではない。彼らは神話の終わりに魂ごと転生し、眷属とよく似た姿へと変化した。 よって黒翼と白翼、この二体だけは同一人物 と把握されている。
眷属は亜竜に近しい地位らを持つ。そのため他生命へ異能の貸与を行う ことが可能である。 この行為は通称「恩寵」と呼ばれるが、各個体ごとに恩寵付与可能な人数は決まっており、力の強い個体ほど多くの者へ異能を与えることが出来る。
眷属一覧 | |
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本名と |
特徴 |
イーノク |
黒翼の転生した姿とされる。黒翼だった頃の記憶はない。水晶翼を持つ黒い獣。寡黙毒舌。連邦国。 |
??? |
白翼の転生した姿とされる。姿形・所在・生死すべてにおいて不明。 |
ヨエツ |
青腹が作った鱗を持つ人魚。水のようなしなやかさと穏やか。帝国。 |
ハーム |
赤尾が作った中紅色の怪鳥。愚鈍で口やかましい。男好き。オネェぽい。公国。 |
各眷属は亜竜と異なる人格 を持つ。また、力を受け継ぐ前の記憶も曖昧だ。そのため時の経過と共に明確な自我を形成していき、自分なりの目的に沿って暮らすようになっていく。 そんな彼らの最優先事項は竜が堕ちた時に受けた「大陸の存続」という使命であり、必要とあらば無慈悲な殺生も厭わぬため、人間とは一線を画す存在と認識される。 仲良くなれば特別な力を分け与えてくれるかもしれないが近づく際には十分に注意が必要である。
血牙族はヒトによく似た「亜人」 へ分類される。 ある時一体の亜竜が、自身の管轄する土地に「牙の欠片」を落とした。するとヒトによく似た姿の生命体が生まれた。その後も「牙を落とした同じ土地」から自然発生していき、独自の集落を作って生活するようになった。 やがて彼らは繁殖と交配を繰り返しながら、当時飛躍的に発達しつつあった人間と亜竜との仲介役として人界へ深く関わっていく。
血牙族は亜竜の補佐を主とし、長となるべき者も亜竜によって選ばれる。よって眷属よりも翼持つ亜竜との親交が深い。
また、不老長寿である彼らは人と交わる内にヒトと見分けが付かなくなるが、血が濃く現れた者は特異な力を発現させて「竜返り」として畏れられた。
最高位の血牙族は、眷属を介さず、唯一竜の瞳から直接生み落とされた「スマラグドの民」。すなわち「金眸の民」ないし「呪われし民」 である。二番目に黒白、次いで青・銀・金・紫・茶・赤牙族と続く。 本編軸では何世代にも渡って人と交わり、血は薄れているが、今でも時折「竜返り」 として血牙族の異能を強く受け継いだ者が誕生するという。 しかし時経るにつれて「血牙族」という単語そのものが忘れ去られ、過去の遺物と成り果てていく。
血牙族一覧 | 族名 | 民族 |
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青牙族 | 帝国オルド人 |
黒牙族 | 連邦国王党派 竜返り:コリンナ |
白牙族 | - |
赤牙族 | 公国ミアナハ人 |
眷属が生まれてまもなく自然発生した亜人。かつては他生物と竜・羽翼の仲立ちをする中間管理職的存在だった。 姿形や社会生活こそ人間にそっくりだが強靭な肉体を持ち血牙族毎に独自の異能を誇った 。 その存在が世界へ根ざし、他種族との交配が進む度人のそれに近づけば、創世記後期には外見だけで人間と区別することは不可能だったという。 彼らは「神の御使い」として敬われていたが、太古の時代――ある事件を境に血牙族は続々と滅ぼされた(前日譚リベルタ・リベルトゥス)。
眷属は己の魔力を他へ貸し与えることができる。 元々これは、眷属が血牙族へ協力するために編み出したものだったが、人間へ貸すことも可能である。竜大陸においてこの力を授かった者は「眷属と縁を持つ者」という意味で「縁者」と呼ばれる 。
魔力の効力は「与える側の強さ×受ける側の適性」 によって変化していく。 血統が血牙族に近いほど適性が高くなる一方、通常の人間では契約自体失敗することも。本編軸では魔力を貸与出来る個体は三体のみ――連邦北方の黒角、公国神獣の赤角、帝国顧問の青角だけが行使可能である。
人間が眷属から能力を授かった場合、過ぎた力ゆえに、等しく短命となる。 貸与によって得られる力が絶大すぎて身体に負担が掛かるのだ。そのため、縁者は早世しやすい。 まず最初の副作用、「無痛」が訪れる。これは眷属側が意図的に施す作用だ。恩寵とは本来、亜人たる血牙族が得るべき力。脆き人には強すぎるため、力の反動で縁者は強烈な痛みに襲われてしまうが、あまりの苦痛に彼らは力を行使するよりまえに精神が蝕まれて廃人に至ってしまう。 次なる副作用は、直接的に死の危険を孕む。眷属の持つ性質が極限まで高められた結果、眷属が司る力に類した様々な症状を引き起こすものだ。 下記は一例である。
青角 | 縁者になると水を操る力を得る。代わりに体温が下がり、時が経つほどに、 |
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赤角 | 縁者になると炎を操る力を得る。と同時に熱さを一切感じなくなり、 |
最後の副作用は縁者の精神へ作用する。 本来、縁者とは血牙族がなるべきもの。しかし大陸ではヒトを対象としているため、負荷が大きく、血牙族では見られなかった新たなる副作用が確認されている。それは縁者の核となる性格、ないし本質部分が剥き出しになっていく というもの。 粗雑な者ならばより横暴に、怠惰な者ならばより無為に、欲深きものならばただただ貪欲に――本質をえぐり出され続けた者はいずれ縁者として期待された働きを出来なくなる。結果として彼らは「何らかの方法」で代替わりしていかねばならない。
縁者は魔力を楽器の形へ変化させて自ら司る属性を自在に操る。青き縁者 は「水ピアノ」を使用して水を繰る。これは青角の氷で出来た鍵盤である。赤き縁者 は「ハープ」を使用して炎を纏う。これは赤角の羽根から作った弦である。
黒翼・白翼の眷属はさらに強い力を持つ。眷属が各亜竜の別個転生体であるのに対し、黒や白の肉体か変わろうとも中身は本人そのものである。よって彼らから力を得た場合は多少事情が変わる。 例えば、黒翼は生命を司る存在である。眷属も「生命強化」の異能を持つ。彼らから魔力を得ると、生命力が飛躍的に増幅し、短命というリスクが消滅 する。つまり死にかけている者なら息を吹き返し健常者なら何世紀も生き続けることさえ可能になるのだ。 しかし――強化されたからといっても不死身ではない。貸与後に耐久度を超えて致命傷を受けると身体を保てず死に至る。
ガルタフト連邦 に住む黒角イーノクは「大監獄の囚人たち」へ力を与える。黒角は力が強いため、同時に幾人へも貸与することが可能なのだ。ミアナハ公国 に住む赤角ハームは「国家元首ミアナハ大公ただ一人」に力を貸し与える。公国では「赤角の力を受けた者=神々の恩寵を受けた特別な人間」と扱われ、その者こそ国を治めるに相応しいと考えられている。オルドーグ帝国 の青角ヨエツが誰かへ力を分け与えたという情報はない。代わりに力を受け継いだ子が居るという裏の噂はある。
力の貸与は通常一度行うとキャンセル不可能 である。 どちらかが死ぬまで、または、より適性の高い相手へ更新されるまで関係は続く。しかし稀に破門という出来事が起きる。これは生きたまま恩寵から外れる状態を指す。少数にしか恩寵を与えられない眷属に、現在よりも適性の高い者が現われて魔力貸与の対象が変わってしまった場合に起きると予想される。
最たる例は、オルランド前大公と、その息子リナルド現大公だ。元々は前大公が契約していたが諸事情が重なり前大公が生きているうちにリナルド現大公と再契約した。よってオルランド前大公の契約は切れて所謂「破門」状態になったと考えられる。 前大公が行方不明であるため、破門となった者がその後どうなるかは明らかにされていない 。
竜大陸では金色の瞳をもった生物のことを総称して「金目」 と呼ぶ。 しかし人々が「金目」と呼ぶ時、二つの意味が含まれる。 呪われし金眸の民「ゴールンデンアイズ」、金眼の異邦人「エンシェントアイズ」――どちらの金目も異形 と見なされる。
ひとつ 、唯一竜の懐から生まれ出た血牙族「スマラグドの民」ないし「呪われし金眸の民」、ひいてはその末裔のこと。 彼らは恵みを大地へ注ぐ役目を担っていたと言われる。だが身体的な力は他血族に負けていた。そのため大陸では元々の住処であった〈竜の頭〉を追われて数を減らし、呪われし民 と呼ばれるようになった。究明機構は彼らを「竜の縁者」と定義する。以降これらを「金眸の民(きんぼうのたみ)」もしくは「GE」と呼称。
ふたつ 、世紀の節目に現れる異能者、その瞳で様々なモノを視抜く者たちのこと。 ある者は過去を、ある者は未来を、ある者は死者を、ある者は人の色を、ある者は隠された知識を、ある者は魂を、ある者は人の心を、ある者は時代の意志を、ある者は殺される予定の者を――。 そうして時代時代に人々を導いた 不思議な存在である。身元不明の者が多いことから異邦人と称されることが多い。 究明機構は彼らを「竜の眷属」と定義する。一方、仔細な記録が残るケアド共和国では彼らを「金眼の異邦人」と呼び崇拝対象としている。以降これらを「金眼(きんがん)」もしくは「AE」と呼称。
伝承によれば、歴代の金眼――すなわち「異邦人」たちは特殊な力を持つ。そのため異邦人はかつて世界を滅ぼした呪われし竜の使者 と伝えられ、存在そのものが禁忌 である。よって時の為政者たちは「金の目を持つ者はすべからく金眼たる可能性を含む」と考え金目差別を強めていった。 金の瞳を持つからといって、ただの民であるか、特別な金眼であるか、一見してはそうと分からないが、一説では「金眼の異邦人」の瞳には神秘的な紫色の影が掛かる。 どちらにも属さない者、所謂、通常の人間は、金目からの蔑称として「視えざる者」と呼ばれる ことがある。
金眼の異邦人は必ずしも種族が人間とは限らなかった。 記録に残っているだけで猫・虫・蜥蜴・馬など様々な種が金眼と認定されている。 また、彼らは前任者から託された使命を代々担っていくが、金眼がそれを成し終わる前に死亡した場合、同じ力を持った金眼が近いうちに産まれる らしいとの調査結果がある。つまり使命を為し終えた者が数人だったというだけで本当はもっと多くの金眼が存在していたのかもしれない。
共和国に保管される歴史書によれば金眼の異邦人は九人 確認されている。 名前は数字の意味を含み活動した時代の順番に名付けられる。本名は別にあるらしいが、判明している者は少ない。よってたいていは数字呼び。
歴代の金眼たち | ||
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数字 属性 |
特徴と容姿 | 種族 視る力 名の読み |
〈0〉 竜 |
角が生えた青年 |
青年 全て ニアラス |
〈1〉 黒翼 |
鱗が光る黒蜥蜴 |
トカゲ 様々な未来 エン |
〈2〉 紫 |
紫トサカの巨大鴉 |
大鴉 死者の魂 ドー |
〈3〉 白翼 |
不老の白い少年 |
少年 過去の記憶 チリィ |
〈4〉 茶 |
花飾りの焦茶猫 |
猫 相手の心 キャハル |
〈5〉 金銀 |
金銀の鬣持つ馬 |
老馬 秘めし知識 クイグ |
〈6〉 赤 |
影がない魚 |
魚 落命者 シェ |
〈7〉 青 |
読書する青い羽虫 |
羽虫 時代の意志 シャフト |
〈8〉 竜 |
角笛を吹く青年 |
青年 命の色 オフト |
八代目金眼は人間や物を色、すなわちオーラの色彩で他者を区別する 。とある老囚人の説が正しければ、だが。 八代目は前任者達のように直接ヴィジョンを視るわけではないため、出来損ないの異邦人と揶揄する者もいる。
獣の姿を取る力強き異形――仮に異邦人が竜の眷属 だと仮定すると、異邦人の力は竜の力である。 証拠として異邦人の「視る力」はすべてを見通した竜の異能と非常に似ている。しかし、何の為に、誰の為に、竜の力は異邦人に受け継がれていくのか。唯一竜と語らった始原の金眼・ニアラス〈0〉が沈黙を貫き続ける今、ひとびとに真実を知る術は残されていない。