性別 |
職業・階級 |
武器 |
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男 |
縫製職人 |
ファルシオン サーベル |
カラー コード |
出身 |
親族 |
スプリング #9cbb1c |
竜の西翼 帝国領 トスツィ村 |
祖父ガスパロ 師イングラム 実父xx 実弟xx |
一人称:僕 二人称:君 象 徴:角笛 綴 り:Serge Tagliavini本編主人公の片割れ、魔力の道筋が視える金眼の持ち主 。 健康的な褐色肌、快活な青年技師。前向きな性格だが呪われし民「金眸の民」と同じ金色の瞳 を持ち、公に迫害を受けている。しかしその才能を生かし、魔法の糸により魔導書を編む魔導書縫製職人 を生業として、約束された一定の身分を得ている。 本編当初では師匠イングラムが営む蹄嶺工房(ていれいこうぼう) へ住み込み、彼の留守を守る一番弟子としてひっそり暮らす。 家族と呼べる人間は師匠のみ。 かつて祖父と共に暮らしていたこともあったようだが、ある事件に巻き込まれ数年前に亡くなった。 幼い頃から小さな角笛 を肌身離さず身に着けている。表面には刻み古代字で何かが綴られているらしい。
黒髪金目・日焼けた肌、筋肉質。 黒い襟足を少しだけ項に流し、広い額に師匠からもらった特殊なゴーグル を着用している。 恵まれた体躯に育ち、オルド人らしく狩りに適した体格 を持つ。また、元々狩猟をして自給自足の生活を送っていたから、肉食獣のように無音で敵に近づくしなやかさも備える。
ストライプ地模様が入った黄緑色のインナーを愛用 。 足元に焦げ茶色の作業用パンツ、くすんだ藍色の乗馬ブーツ。刀身幅の広いファルシオンは腰 に、長期外出時や旅に出る時は護身用のサーベル を併せて持ち歩く。このサーベルは祖父の忘れ形見である。 また、白い上着は皇都公認の技師や職人のみに許される制服。同業者の八割、ないし皇帝直々に承認を得た位の高い職人しか持たず、これによりセルジュは迫害を受ける身であっても命を保障されている。
魔力の流れが「視える」者たち――その多くは金色の瞳を持つ。 彼らは呪われし金眸の民の末裔 として迫害されるが、しかし魔法を用いる戦争において必要不可欠な存在となる。仮に竜返りが「竜の肉体の再現」とすれば、金目は「竜の魔力の再現」となる だろう。
帝国で言うところの「修繕」とは魔導書の修繕・改良を指す。 修繕職人たちは依頼者に合わせて縫い方、糸の特性を変えつつ、長く使えるよう本を編む使命に生きる。かつて皇帝公認の宮廷職人イングラムに弟子入り したセルジュもまた、数少ない修繕職人としてその力を国土安全のために奮っていた。だが縫製職人であることは「自分は金目である」と公言するに等しい 。職人の路を選んだ者には安泰の対価として孤独と迫害の人生が待ち受けている。
先住民が持つ金色の瞳は「竜の瞳」と呼ばれる。 この目は悪しき竜の代弁者の証である と忌み嫌われていた。加えて金眸の民は竜の寵愛を得ていたのを良いことに、大陸に漲った魔力を好き勝手利用したという。その横暴さは主たる竜に呪われる切っ掛けとなり黄金郷を追われる迫害の歴史 へと繋がっていく。 その名残だろうか。今なお人々の意識には金目迫害の意識が根深く染み付いている 。ゆえに生き残った金目達は瞳を隠し、息をひそめて生きてきた――主人公セルジュもまた、かつてはゴーグルの下に美しい黄金を隠して生きる民の一人だった。
むかしむかしの話である。年の頃五つほどの少年が赤ん坊の弟を胸に抱きかかえ、深い黒い森を彷徨っていた。実の両親は行方知れず、どうして己が森に居るのかさえ分かぬまま、年端もいかぬ少年は黙々と「目に視える」道を辿って歩み続けた。そのうち二人とも腹が減ってきた。大人しかった赤ん坊もさすがにぐずり始める。困り果てた幼い少年は、自らをゆりかごにして、賢しらそうな弟の瞳を覗き込んでは項垂れた。 ――僕のせいだ。僕の瞳が、弟を殺すのだ。 己に対する憎しみが膨らむのと同時、両親へ対する憎しみも湧いてきた。なぜ自分だけを捨てなかったのか。弟を道連れにする必要などないのに――しかし幾ら憎かろうと少年は親の顔を思い出せなかった。高ぶる激情ゆえか、「何か」に対する憎しみだけが募っていった。
どれほど歩いたろうか。互いを唯一の拠り所とする兄弟は重たい森をつき抜け、白き巌が敷き詰められた広場にいた。少年が無意識に辿ってきた道は巨大なオベリスク に集い、そこで途切れていた。墓場を彷彿とさせる冷たい静謐さに身を任せればようやく少年の中へ得も言われぬ寂しさが染み出していく。 兄に代わって泣き声を挙げた弟を慰めるよう、少年は角笛を取り出した 。未発達の肺からそっと吐息を吹き込むと柔らかい低音が子守歌のように響き渡り心の空白を満たしていった。少年は弟のために息の限り音色を保ち続け、いつしか二人とも深い眠りに落ちていった。 そんな彼を拾ったのは墓守の老人だった。歳ふりた男はガスパロ・タッリャヴィーニと名乗った 。まもなくして赤子はどこかへ引き取られ老人の所には少年だけが残された。彼は弟との別離を悲しみはすれど、安堵した面持ちもしていた。 かくして少年は義父の庇護のもとすくすくと育っていく。やがて立派に成長した青年は、老人の生活を助けるようになり、孝行息子として評判になっていった。
ある時、青年は悲嘆に暮れるみすぼらしい羊飼い と出会った。名をニーノと言った 。彼は盗人に大切な羊をすべて奪われてしまい、暮らしに困っていると説明した。 事情を知ったお人好しの青年は、その羊飼いを家へ呼び、衣食住を提供した。 すると、どうしたことか? このニーノという男、頭が切れ、ことあるごとに青年や祖父を助けるようになった。 一介の羊飼いと思えぬ弁舌、護身術、手際の良さ……次第に祖父はニーノと呼ばれた羊飼いを疑うようになった。業を煮やした二人が男を問い詰めたところ、本業は商人 であること、各国を又に掛け行商をしていたが悪名高いガルタフト連邦国にて、あらぬ疑いを掛けられて逃亡してきたことを白状した。 誤解が解けたことで三人は和解、羊飼いに扮していた商人は青年の親友 として行動を共にするようになった。
その日も青年は祖父の手伝いをしていた。祖父は墓守でありながら看守の任も請け負っていたため、左遷されてやる気を失った帝都兵へ代わり、囚人の見張りを行っていた。すると穏やかな声が彼を呼ぶ。誘われるよう石牢の奥へ進むと一人の老囚人が青年へ語りかけていた。バラウールと名乗った老爺 は話し相手になってほしいとほほ笑んだ。 「あの看守はぶっきらぼうでね」 すぐに祖父のことだと分かり、青年は笑った。連邦国へ極秘情報を流した罪で捕らわれた老囚人は、今となってはどこからどうみても人畜無害だった。だから、部屋の前に椅子を運んで来ては耳を傾けることにした。青年はこう考えたのだ――政治犯の中には冤罪も少なくない、たしか隣国ガルタフト連邦国のコリンナ姫も無実の罪で投獄されていた と聞くし、大丈夫だろう、と。 語らい始めてまもなく、その老囚人は優れた語り部だと判明した。大陸の成り立ち、竜のおとぎ話、金目の伝承、呪われし民の国――老人の特権か、囚人は歴史に埋もれた物語を語って聞かせ、その語り口は青年の心をとらえて離さなかった。
そんな日々が続いたある日のことだ。青年は岩場に珍しい花を見つけた 。白雪のごとき花弁、小さくて楚々とした可憐な佇まい。色さえ違えど老人が語ったお伽話の花にそっくりだと過ぎり、ひとつ手折って贈ることにした。すると囚人はたいそう喜んだ。そして「もっとくれないか。故郷を思い出すんだ」とせがむ ではないか。こんなことで日々のお礼が出来るならなんてことはない。青年はそう笑って、一日中白い巌の隙間を探し回った。偶然にもそこは少年だった彼が祖父に拾われた場所だったが気にならぬほど熱心に花を摘んでいたという。かくして青年は籠いっぱいに瑠璃花を摘み終わると囚人の元へ持って行った。
その夜。老囚人は石牢に収監された囚人を丁寧にひとりずつ殺して、脱獄を果たした。当時看守をしていた祖父も例外なく惨殺され、傍らには二人が激しく戦った痕跡があった。最もむごい殺され方をした祖父ガスパロの亡骸には公国紋章が刻まれた見事な剣 がひとふり突き刺さっていた。 青年が贈った珍しき花。のちになって、「輝雪花」と呼ばれるかの白花は、連邦国における魔力の源「ルアハの花」 と同じ性質を宿していると判明した。それゆえに老囚人――連邦国の魔法将軍だった者――が力を取り戻す切っ掛けとなってしまった。最低最悪な脱走劇の発端を作った青年は、表向きは「尊属(祖父)殺し」の罪を着せられ、帝都に連行されたのち裁きの時を待つこととなった。
いち村人に全責任を負わせることを否として青年の裁判は長引いていた。驚いたことに、セルジュの断罪へ反対したのは大国の主ジュリアン皇帝 だった。 そもそも老囚人をあの村へ移送した経緯は、老爺が衰弱して死の床に瀕しており、情報を吐き切って何もかも諦めたのだ……と皇帝が判断したことによる。魔法すら使えない状況にあって肉体的・精神的にも無害と判断したからこそ、老囚人は穏やかな村で余生を過ごすことを許されたのだ。しかし事実は違った。かの老囚人には元の主人に対する忠誠は垣間見えなけれど、別の思惑が秘められていた のだと西翼全土の人間が知ることとなった。
さて、帝都の面々が対処に困っていた同時期、皇帝の側に謎めいた宮廷職人がいた。先代より皇帝へ仕えては魔導書修繕を請け負ってきたナイトヒュー・イングラム である。セルジュと同じ金色の瞳を持ちながら、人々の尊敬集め、かつ帝都を離れ工房を開くことをしばしば熱望していたこの男は、青年の中にある種の才能を見出し、自らの後継者とすることを条件に釈放を歎願した。するとその要求はあっさりと通ってしまった。国防の柱とも呼べるイングラムが認めた才知、しかも跡目候補になり得る能力の持ち主 だと言うのだから周囲も頷かざるを得なかったのだ。
のちの師イングラムはその足で牢獄へ赴き青年へ説いた。 「魔法戦争において縫製職人は必要不可欠だ。しかし私の後を継げば『金眸の民』として生涯差別され、孤独のまま死ぬことになる。何者にもならず己を呪い朽ち果てるか、迫害の中で自分しか為せぬことを為すか。君が選びなさい」 恋人はおろか、誰とも寄り添うことは出来ない。呪われし民の伴侶となりたい人間などこの大陸には存在しないのだから――それは我が罪を悔い、罰を求める青年には魅力的な申し出に思えた。彼はイングラムの手を取り「縫製職人としての立場を捨てれば再び罪人として死罪にする。二度目はない」との条件で解放された。 師たる男は、身よりのない罪人を引き取ると、青年の故郷へ共に戻り工房を開いた 。時が経つにつれて青年は男を「先生」と呼び慕い始め――穏やかで思慮深い師は青年にとって人生の指針であり、目標となっていった。 どこか憂いを讃えたイングラム師匠の瞳――それはかつて青年が憎んだ黄金色をしていた が、いつしか家族の証へと変化していた。